Dangerous Charms

個人の感想です

松浦亜弥「ファーストKISS」

ファーストKISS

ファーストKISS

アイドル最終兵器だのアイドルサイボーグだの松田聖子の再来だの言われて、アイドルとしての姿勢の徹底ぶりに驚きを以て受け入れられていた松浦亜弥
当時を知らない人に説明すると、芦田愛菜のソツの無さに対する反応に近いと言えばいいのかな?
でもこれって、誉めてないよね。お芝居してるあざとい人間だと言ったも同然だろう。

つまり、松浦亜弥ってアイドルじゃないのだ。アイドルという言葉に大衆が感じているアトモスフィアを体現してみせた、優秀なモノマネ芸人さんである。存在としては今でいうアイドル声優みたいなものだ。
だからこそ必要以上に作ってる感を醸し出していたし、楽曲もPVも無駄にハイテンションでアレンジもギュウギュウに詰め込んでいたのたろう。

そもそもアップフロントの売り出すタレントのこと、王道を行くアイドルなんて作り出せるわけがない。だってここの系列で成功したアイドルってモー娘。以前はWink森高千里だもの。両者はアイドルが死に体となっていった時代、王道アイドルに対するアンチテーゼというかポストモダンというか、横道にそれた魅力を持っていたのがブレイクの理由である。
彼女の曲を作るつんくだって元はシャ乱Qというパロディとハッタリでいてこました、王道をいくバンドと比べたらなんだかウソっぽくて安っぽくて、でもそこに面白さがあったバンドのボーカルである。(が、そこに飽きたらそれまで、という欠点もあって、熱が冷めたらブックオフに大量放棄、という側面も)

売り出しからして、ブレイクしたモー娘。のバーターだったしね。言うまでもなくモー娘。はオーディション落選組をかき集めて歌わせたこれまた王道から脱線したアイドルグループ。
そんなモー娘。が大ブレイクして、アイドルの頂点に立った頃にデビューしたのが松浦亜弥(しかもちょうど、モー娘。のベスト盤がメガヒットしてた時)なのだから、アップフロントつんくは天下取ったど!今こそ王道アイドルだ!と判断したのかも知れない。路線変更後のタンポポもそんな感じだろう。

でもアップフロントつんくという組み合わせでは、何をやってもパロディめいてしまう。たい焼きは鯛にはなれないのだ。もちろんアイドルが好きなことも、気合いを入れてるのも充分に感じる。
感じるんだけど、それを再現しようとして、パロディめいた別物をこしらえてしまったという印象である。
その後、結局はモー娘。と同じB級アイドルソング路線に走ったり、本格派を勘違いした歌謡曲に走ったりして失速したのはご存知の通り。モー娘。は「私たちは鯛じゃなくてたい焼きだけど、こっちだっておいしいじゃないか!」と堂々とした態度でいたのがよかったのだが、
松浦亜弥は「たい焼きのはずが鯛を売ろうとしてきた」と言うべきか。(その最もたるものが「草原の人」だろう)
そんなアップフロントを尻目にソニー松田聖子渡辺美里で培った方法論を存分に発揮して、中島美嘉YUIといったゼロ年代向けアイドルを見事にブレイクさせたのだから皮肉なものである(それが未だに西野カナやmiwaへと継承されているのもソニーの凄さである)。

そして今更になって、リリース当時から名盤名盤と好評だったファーストアルバムをようやく聴いたのだが…。
…うーん、うるさすぎない?
全曲気合いが入っているのはすごく分かる。でも、そのせいか曲と曲がケンカをしていて、作品というよりほんとに曲を寄せただけという感じである。
中森明菜でいうと「Stock」をいきなり聴かされたような感じとでも言えばいいのか?オザケン「LIFE」の異様なテンションと多幸感も連想してしまう。
そして、かつてのアイドルソングにはあった情緒の要素が欠落している。主に歌詞面で。秋元康の歌詞が「野郎の妄想と感想文」なら、つんくの作詞は「おじさんが一生懸命頭をひねって考えだした10代女子の近くて遠いリアリティ」である。ま、いざ情緒を表現したら演歌になっちゃうんだけどねこの人。
これを松浦亜弥はしっかりと、時にはしっとりと注文通りに歌い倒しているのだからこれぞまさしくアイドルサイボーグのサウンドトラックとしか言いようがない。

あと、時代的な流行だったんだろうけどR&Bっぽいアレンジをしている曲がちらほらあるのは残念。スクラッチ入れてたりとか。「S君」なんてモロにジャネット・ジャクソンで、これつんくの悪いクセなんだよな。こういうことするからハッタリ感が強調されてしまう。
なんちゃってR&B曲となんちゃってセクシー路線、なっちソロでもゴマキソロでも同じことして失敗したでしょ。
ただ、こういう濃密なアルバムにしたのは分からなくもない。松浦さんの歌声って、上手なんだけど滑らかに流れていってしまう、掴みどころの弱い声質なので、ポップスとしての爆発力に欠けているのである。森高千里みたいにもう少しキンキンした声だったらよかったんだろうけど。
つんくはそこの弱点を補ったんだろうが、それがドンドン強調されていって巻き舌だらけになってしまう「×3」とか明らかにやりすぎだとしか思えなかった。あれはもったいない作品である。

しかし、ここまで徹底的につんくと共犯関係を築いておきながら、後になってこの頃の辛さをボヤいたり、ファンを突き放すような言動をしたり、挙げ句の果てには結婚した時のあの旦那のことしか考えずにやってきたかのようなコメント…あれはいくらなんでもないでしょ。そんなんじゃつんくから離れた途端加速度的に作品の方向性が迷走するのも当然だろう。

ちなみにセカンドアルバムと「ね〜え?」はティセラのCMにやられて買いましたともよ。ま、それっきりだったけど…。