Dangerous Charms

個人の感想です

中森明菜「D404ME」

オリジナル盤リリース:
1985年8月10日(LP)/9月10日(CD)

中森明菜9枚目のアルバム。
前作から4ヶ月ぶりのオリジナルアルバムで、ヒット曲「ミ・アモーレ」の別バージョンをラストに収録している。「飾りじゃないのよ涙は」→「ミ・アモーレ」という無敵のムードに押されたか、65.1万枚というヒットとなった。

実はコンセプト・アルバム仕立てとなっていて、タイトルの意味はニューヨークの倉庫番号とか何とか。そのコンセプトを説明した全文はこちらで読める。

…これを読んでそれぞれの曲を振り返ってみても、果たしてそういうコンセプトで作られた曲なのか、判断しかねる。
20歳となった少女がママサンドラに再会しに行って、今まで重ねた恋を語るのか、それともこれから経験するのか。そのようなストーリーはそれぞれの曲から伺い知ることはできない。
それに「BITTER AND SWEET」からわずか4ヶ月のリリース、制作は同時進行か時期が重なっていたはずなので、こちらはストックされていたり選考の末に残ったものを拾いあげたアルバムというのが実情ではなかろうか。
実際に「BLUE OCEAN」「STAR PILOT」はシングル候補であった曲として知られているし、他に「モナリザ」や「アレグロ・ビバーチェ」も、いかにもシングル向けのキャッチの強い曲である。
唯一の小品バラード「ピ・ア・ス」を真ん中に4曲ずつでサンドし、始まりと終わりにSEを施すという構成になっていて、そこはコンセプチュアル。ミ・アモーレは客引きの為のオマケである。

ジャケットも、アイドルの領域に収まらないデザイン性のあるものへと変貌。コウモリのモチーフが全面的に配されており、LPでは真っ黒な歌詞リーフレットに、CDではジャケットの黒い部分をよく見るとコウモリのモチーフが印刷されている。未だにドアップだらけのアイドルらしからぬ引きの構図も特徴的。
着ている衣装も明菜さんのアイデアが盛り込まれているというので、ビタスイから始まったアーティスト化がまたひとつ進行しているのが伺える。

「ENDLESS」
(作詞/作曲:大貫妙子 編曲:井上鑑
大貫妙子にしてはハードなオープニング曲は、まるで明菜さん本人の生き方を俯瞰したかのような歌詞。ここで歌われる「あなた」とは、ラブソングとも取れるしレコードを聴いているファンとも取れる仕掛けになっていて、まさに職人芸。

ノクターン
(作詞/作曲:飛鳥涼 編曲:AKAGUY)
ASKA提供の、バラードだった予感から一転してハードな曲。サビ部分に唐突に声を張り上げる暴れ馬のようなボーカルがこのスリリングな曲には合っている。アレンジがSmooth Criminalなのはご愛嬌。

アレグロ・ビバーチェ」
(作詞:三浦徳子 作曲/編曲:後藤次利
タイトルに反して悲しげな歌詞。それを意識してか歌唱も比較的弱めにしていて、更にシングルA面よりも素に近い声で歌っている。

「悲しい浪漫西」
(作詞:許瑛子 作曲:都市見隆 編曲:中村哲
SAND BEIGEコンビの曲だが、さすがにそれと比べるとアルバムの曲という感じは否めない。

「ピ・ア・ス」
(作詞:岡田冨美子 作曲:タケカワユキヒデ 編曲:中村哲
センターに置かれた小品バラード。シンプルで歌謡曲的でないメロディは歌唱力が試される。

「BLUE OCEAN」
(作詞:湯川れい子 作曲:NOBODY 編曲:久石譲
ファンの間ではシングル候補だったことで有名。中森明菜としてはかなり異色なはじけたタイプの曲。久石譲による現代音楽経由の凝った打ち込みアレンジもまた異色。

「マグネティック・ラヴ」
(作詞:epo 作曲:大貫妙子 編曲:清水信之
キャッチーさよりもグルーヴ感を優先したかのような難曲。ミ・アモーレが間奏でサンプリングされている。

「STAR PILOT」
(作詞:ちあき哲也 作曲:忌野清志郎小林和生 編曲:後藤次利
これもシングル候補だったことで有名。作詞も忌野氏だったものの、男性目線で直球エロだったためにそれでは歌えないということで、別の作詞家が女性目線で少しソフトなものへと修正した。RCによるセルフカバーが後にリリースされている。

モナリザ
(作詞:竹花いち子 作曲/編曲:後藤次利
これはシングルとしてリリースしてもヒットしたのでは。アレンジがTake on meなのはご愛嬌だが、歌詞・メロディー・アレンジそして歌唱が塊で押し寄せてくる圧巻の隠れ名曲。
終了後に冒頭のSEが流れて、このアルバムはここで終わったということを知らせている。

「《including special version》ミ・アモーレ」
これはLPでは10曲目という扱いになっていない、あくまでおまけとしてのトラック。オリジナルのアレンジは松岡氏が納得いってなかったようで、こちらは思いっきりサンバのアレンジになっている。

このアルバムで特徴的なのが、SEや打ち込みやサンプリングなどを駆使したアレンジ、そしてシングル曲の歌唱に慣れていると違和感を感じる人もいるかも知れない、肩の力が抜けたような奔放な歌い方をしている曲が散見されることである。
シングルでは丁寧にテイクを重ねて選定したような、みんなの想像する「明菜」の歌い方をしているが、こちらでは声を出したかと思えば思い切りひっこめてみたり、
艶やかな声になったかと思えば蓮っ葉な声になったり、かと思えば弾けるように歌ったりと、シングルのイメージで聴くと少し驚くようなボーカルになっていて、ここでしか披露していない歌唱が多い。
他の曲でびっくりしても、最後の「モナリザ」はシングルの歌い方が好きな人なら納得できるような歌唱になっているのはわざとかもしれない。
まだDESIREでの「明菜ビブラート」が形になる少し前、彼女はここでさりげなく自身のボーカル表現を試行錯誤していたのである。

D404ME

D404ME

  • アーティスト:中森明菜
  • 発売日: 2014/01/29
  • メディア: CD