Dangerous Charms

個人の感想です

武藤彩未「永遠と瞬間」

聖子のエピゴーネンがまたひとり自滅した。ただそれだけのことである。

今まで何度となく繰り返されてきた、松田聖子を「ちょっと歌の上手いぶりっこ乙女チックアイドル」くらいにしか理解していない大人たちによる、安易なアイドルごっこの失敗、それが武藤彩未であった。松田聖子はアイドルではなく、もはや松田聖子というひとつのジャンルであることを、もっとみんな自覚すべきなのだけど…。

可憐Girl'sとさくら学院を経てソロデビュー、しかもグループアイドルの副業ではなくソロ一本での再デビューということで、当初は松浦亜弥以来のソロアイドル誕生だとけっこう鳴り物入りだった。
音楽系webメディアが続々取り上げ、異例のQUICK JAPAN大特集、SNSでは意識高い系ライターがこぞって賞賛、すわソロアイドルの時代か?と囁かれもしたものの、蓋を開けてみればネズミ一匹、結局はご本人の休業という形で幕を下ろし、そんな彼女を尻目に欅坂46を始め相変わらずAKBたちは元気いっぱい、NGT48やSTU48のデビューも続き、グループアイドルの牙城はますます大きくなっている。
(辛口なあの人とか有名なあの人とかやたら絶賛ムードだったなぁ。金でも貰ってたのか)

休業報道に対して「やっぱり今はソロでやるのは難しい時代なのか」という反応が多かったが、そんなことはない。アイドルになれないまま潰れたに過ぎないのだ。

だって、シングルもフルアルバムも出さずにミニアルバム2枚出しただけで終了って、いくら何でもショボすぎる。肝心かなめの作品がこんなに弱々しいなんて、力入れる方向を完全に間違えていたとしか思えない。
80年代アイドル意識するなら、シングルは年3枚、フルアルバムは年2枚出すくらいの根性は見せてもらいたい(そのうえ年末に企画アルバムとかだしてたぞ、昔のアイドルは)。

たとえミニアルバムでも作品が凄ければいいが、これが何とも言えない無味無臭J-POPで彼女をどういうアイドルにしたいのかが見えて来ないのだ。
アイドルをやるためにアイドルをなぞっているだけで、武藤彩未をアイドルにしようという周りの愛情をあまり感じない出来栄えである。
作曲がほぼ全て本間昭光というのも、身内に依頼しただけというアミューズのやっつけ感(Buzyで同じことやって失敗してんのになんでまた繰り返すわけ?そういう悪い意味でハロプロみたいなことするなよ)があるし、エレクトロなアレンジもさすがに食傷気味で制作費ケチっただけにしか思えない。どうせミニアルバムなら、全部違う作家に書かせた方が面白いだろうに。
だいたい全曲エレクトロアレンジにするなら曲もダンスミュージックにすりゃいいのに、歌謡曲にエレクトロアレンジ乗せたら安っぽくなるだけだって。
握手会などの接触イベントやらずに売るなら、何よりもまずは楽曲で勝負しなきゃダメだろ。それこそ松田聖子のようにね。何故そこは真似しなかったのか。

アルバムデビューによる短所はまだある。それはリード曲の1曲のみでしか、メディア出演ができないことである。実際にPVも「宙」のひとつしか制作されていない。そして、シングルならば年に3〜4回メディア出演の機会に恵まれるが、アルバムは早くても年に2回しかその機会に恵まれないのだ。
他に強力なタイアップでも取っていればまだ披露の機会はあったかも知れないけど、セブンティーンアイスは…ねぇ?しかも「セブンティーン盤」買わないと聴けないってひどい。
これでは手が伸びにくい。元々アイドルはアルバムが買われにくい傾向にあるというのに。

そもそもプレデビューからして不穏だった。80年代アイドルのカバーミニアルバム「DNA1980」を2枚って…それくらい1枚にまとめろというのもあるけど、何で最初の作品がアイドルカバーなの。アイドルの物真似を売るんじゃなくて武藤彩未を売ってくれよ。これじゃアミューズのノスタル爺たちによる懐かしのアイドルごっこだろ。
(実際このCDが発売されたライブレポを読んだ限りでは、演出も含めて80年代アイドルのキレイなトレースをやらされているに過ぎない感じがした)
その内容も松田聖子チェリーブラッサムとか、完全に負け試合。聖子本人ですら歌いたくなかったというほどあまりアイドルポップスでないこの曲をよりによって選ぶとは…。しかも青い珊瑚礁まである。これは公開処刑か?河合奈保子?もうやめてあげて!
でもまあ、斉藤由貴のカバーなら上手くやれるかなと思ってたけど(ごめんなさい)、悲しみよこんにちはの弾けるようなサビの譜割りを無感情に処理してしまったので白けてしまった。オリジナルよりテンション低くしてどうする。
(修正で生気がなくなってしまった可能性もあるが)
こちらのアレンジは大物に頼んで生演奏にしているので、それだけがなけなしの救いだが、それならどうして安いデジポップでデビューさせたの?謎である。*1

そして、ここで彼女は枷をはめられた。聖子や奈保子や今日子などの錚々たる80年代アイドルと比較され、自分の作品で膨大なアーカイブに挑まねばならないというとんでもなく重たい枷だ。
これは彼女ひとりで解決できる問題ではなく、どれだけアミューズが自覚的に作品づくりをしてくれるかが鍵なのだが、結果は知っての通り。
そりゃ辞めたくもなるだろう。
アミューズはアイドルなんか作れないから。
ベビメタもPerfumeも、現場の人たちが好き勝手した結果それが面白いとブレイクしただけで、アミューズの手柄ではない。

衣装もダサかった。Perfumeもたまに着せられる、未来っぽさを履き違えたかのようなテカテカヒラヒラした安っぽいラッピング素材のような衣装や、聖子も明菜も早い段階で着なくなったカマトトぶったダサすぎるワンピース衣装なんて、ドルヲタは騙せても女性ファンは興味持ちませんよ…(I-POPの時期の衣装は特に酷かった)。
AKBはあれだけの人数の衣装のために衣装部門を分社化させ徹底管理、女性クリエイターが集結して質よし(時には生地から特注するほどに)、センスよし、安っぽさゼロの衣装を毎回作ってますぞ。

そして武藤さん本人も「10代のうちに武道館」「(坂本龍馬のように)アイドルシーンの革命児になる」「ジャンヌ・ダルクのように革命者になりたい」「松田聖子さんのように歌い継がれるような人になりたい」
などと次々にビッグマウスを連発していた割には、あまり特徴のない声だ。屋台骨が頼りない。確かにボーカルはキレイで丁寧だけどそのぶんスケールが小さくまとまっちゃってて、これで中途半端に聖子のキャンディボイスを意識した歌い方しちゃったら、おしまいだろう。
それならもう聖子のCD聴いた方が早い。

あとライブの動画を見ていると、CDとは違ってロック寄りのアプローチをしているのに気づいた。これも間違いだろ。これなら藍井エイルやAimerやLiSAや水樹奈々などのアニソン歌姫の方がはるかに声に合ってるし歌唱力も上である。
アイドルのDVDを見て勉強するというのも非常にマズい行為だ。中森明菜のように根っからのミーハー体質ならフィードバックに繋がるが、根が真面目だと思われる彼女では、愚直なまでに昔のアイドルっぽいものをなぞることしかできなかったのではないか。

結局ライブのハコも大きくならず、躍進で重要な女性ファンも掴めないまま、可憐やさ学から引っ張ってきたファンだけの祭典で終わってしまった「自称革命」だったのだ。
これは決してソロアイドルゆえの失敗ではなく、ただアミューズが無能だった、そして武藤さんの器もそこまで大きくなかったというだけの話である。
ソロアイドルで改めて売りたいなら、父兄なんて痛々しい自称してるさ学オタを切り捨てる覚悟が必要なのだが、そんな勇気は持てなかったようだ。工藤静香というおニャン子を振り切って売れた先人がいるにもかかわらず。

現在のグループアイドルにも付け入る隙はある。アイドル=歌って踊ることが前提となりすぎていたり、音圧ギュウギュウで聴き疲れする音作りだったり、ポジティブ一辺倒でかえって気が滅入るような歌詞ばかり歌ってたり。
例えばAKBGなんて持ち歌だけは膨大にあるけれど、曲を雑に詰め込んだものばかりでまともなオリジナルアルバムが存在しないし、あの秋元の作詞なので情緒のカケラもない。
つまり、これらは全て80年代アイドルから失われた要素。
なのに、他でも聴ける量産型打ち込みポップスを歌わせたり、MIKIKOの振付けを継続してステージでひとりPerfumeみたいなパフォーマンスさせたり(しかもプロジェクションマッピングとか…MIKIKOも無能っぽいね)、グループアイドルでやってることをひとりでやらせてしまったので、これで客が付くわけがない。

このことを理解できるような「大人」は、そういないのだろう。たいしてアイドルが好きでもない焦臭さい人たちが昔のアイドルを真似た何かを売ろうとするほど、寒々しい行為はないのだが。
最低限、聖子と明菜と薬師丸と今日子のオリジナルアルバムくらいは一通り聴いた上でアイドル商売を考えて欲しいものである。

*1:そういえばこれを聴き比べて感じたけど昔のアイドルと今のアイドルの違いって生気の差もあると思った。昔のアイドルはガキんちょで気まぐれでワガママで生意気なところをあまり隠してなかったし。好き嫌いとか平気で言っちゃう。今のアイドル…に限らないけど、そんなこと言おうものならインタラクティブ化したメディアの力で批判されちゃうもんな