中森明菜「不思議」

オリジナル発売日:1986年8月11日

中森明菜10thアルバム。
ディレクターとそろそろコンセプトアルバムを作ろうという話を以前からしていて、それがようやく実現し中森明菜本人によるプロデュースの元で制作されることとなった。
シングルなしの新曲のみで構成されたため、売り上げは46万枚ほど。

当時のアイドルのお作法としてシングルなしのコンセプトアルバムを一度はやりたいのは分かるし、最初のセルフプロデュースでアレコレとアイデアが出てくるのも分かるけど、何故いきなりこれなのか。しかもBESTとDESIREが大ヒットした直後の新作がこれなんて今でもかなり挑戦的というか、もはや喧嘩腰だ。

このアルバムは何て言ったらいいのか…フュージョン発、ニューウェーブシューゲイザー経由、音響派ヴィジュアル系着みたいな…そんな感じ…だろうか?
良くも悪くも有名なアルバムなので語り尽くされた感はあるけど、何よりまず「声が遠い・聞こえない・なんて歌ってるか分からない」のである。
例えるならばお風呂で熱唱している人の歌声を外から聴いているようだと言えばいいのか…歌声がバックトラックに埋もれっぱなしで、時たま「ああああ」「おおおお」という咆哮だけが、ボーカルの音量が最大になってはっきりする。
ボーカルのみだけでなく、楽器全体が深くリバーブをかけられているせいか、やたら気持ちよく低音が響くために、ひたすら音だけをずっと聞いていたくなるほどだ。

とにかくレコード大賞受賞者である大人気歌手中森明菜がそれまでの活動を総括した「BEST」を出した次のオリジナルアルバムなのに、これですか?と言いたくなる。音だけ聴いたら、ビタスイとダシオシミの次として手堅いクールなサウンドなのだが、そこに何故かゴスとホラーがぶち込まれてこんなことになってしまった。
キャッチコピーが「三回聴いて、『謎』深まる。」と「ウロコが目から飛び出して、耳のタコまで踊り出す。」だったのも分かる。ワーナーの宣伝担当の人たちも、いったいこんなアルバムをどう売れというのか、なんて頭を抱えたに違いない。

ジャケットからして、顔が殆ど隠れる黒装束を纏い、妙なメイクをした不気味な明菜さんがこちらをじっと視ている。帯を外せば文字がどこにもないので誰の作品なのか分からない。
そして裏ジャケットは、曲目がなぜ中国語表記になっているのか。ワケ分からない。
歌詞カードもオールカラーの12P仕様なのだけど、まるで大雨の中に佇んでいるような薄暗い中にマスカレードのマスクのようなものがボンヤリと浮かんだ写真がひたすらあるだけで明菜さんの顔など一切ない。
これがCDだと16ページなのだから更にヤバい。当時のCDはオールカラーの歌詞カードは珍しかったのに、まさかこういう作品でカラー印刷をしてしまうとは…。
更に、歌詞と共に手書きで中国語の対訳が載っているのが意味不明さにトドメを刺す。何これCoccoの歌詞カード(英訳)先取り?
別に中国市場に乗り出すわけでもないし、そもそもジャケットはシルクロードだかどこだか分からない場所だし、衣装の参考になったのはハワイの人形らしいし、サウンドはヨーロッパだし、何なのこの無国籍感。
とにかく「不思議」というコンセプトをサウンド・ビジュアル両面から実現すべく、明菜さんが思いつくだけのアイデアをぶち込んだのだろう。

そのサウンドに関しても、曲目からアレンジから二転三転した。予定されていた収録曲と、実際の収録曲が大幅に変更になっているのである。当初の収録曲は以下の通り。

【A面】
Fire Starter
燠火
蒼いTwilight Rain
赤い不思議(ミステリー)
危ないMON AMOUR
【B面】
マリオネット
ガラスの心
赤毛のサンドラ
Teenage Blue
不思議
Fin

ここから察するに、このアルバムの初期コンセプトは「赤と青」だったのだろう。タイトルに赤と青を込めた曲が、それぞれ2つずつ入っている。
この内容でどこまでレコーディングしたのか、いつ収録曲が入れ替わったのか分からないが、とにかく一旦はミックスダウンにまで至ったものを聴いた明菜さんが一言「カッコいいけど不思議じゃない」と。
そして内容が大幅に見直されることとなり、ディレクターが同じだったEUROXとの邂逅が大きなきっかけとなってアレンジも彼らが手がけることとなって、再度ミックスダウンすることとなり、当初2月頃には出るはずだった予定から延びに延びてリリースされたのは8月であった。

最終的には表題作すらオミットされ、4曲のみを残して後は全て入れ替わっている。それらは後にシングルになったり別のアルバムに入ったりしたが、「蒼いTwilight Rain」と「赤毛のサンドラ」だけはお蔵入りのままである。別のタイトルに生まれて変わってリリースされた可能性があるけど、今となっては知りようもない。

不思議

不思議