Dangerous Charms

個人の感想です

中森明菜「バリエーション〈変奏曲〉」

オリジナル盤発売日:1982年10月27日

「少女A」でブレイクした後のセカンドアルバム。
少女Aが色んな意味で話題となり、次のセカンド・ラブで本格的に社会現象になる間に発売されたアルバムだけあって、オリジナルアルバムでは最高の77万という売り上げを記録している。
この少女Aという曲で、山口百恵フォロワーそして松田聖子のカウンターとしての地位を確立できただけでなく、アルバムも大ヒットしたことで「少女Aという曲が受けただけ」という一発屋にありがちな状況を打破して中森明菜本人がブレイクしたのだということが確実になった。
今も昔もアイドルというのは、シングルがヒットしてもアルバムが売れにくいものだが聖子と明菜は当てはまらず、そういった意味でも別格だったのだ。

山口百恵が引退し、その後釜を狙って不良っぽさを売りに続々デビューした歌手がなぜみんな売れもしないで終わってしまったのか、
それは山口百恵の歌手としての歴史や文脈を無視していきなり「横須賀ストーリー」や「プレイバックPart2」を意識した曲で「ほらモモエみたいでしょ?」という下心丸出しで売ろうとしたことと、それにより歌手の成長過程を追体験するというアイドルファンの醍醐味を味わえないことであった。
それでは歌手ではなく、一発芸でブレイクしたお笑い芸人と同じ立ち位置である。三原純子が「顔はやばいよ。ボディやんな、ボディを」しか残らなかったことや、デビュー曲以外でヒットしたのはコミックソングくらいだったことからもよく分かる。
そんな安易な仕事で受け入れられるほどマスはバカじゃないのである(後に「中森明菜フォロワー」として売り出されるアイドルも同じ目に遭う)。
もちろん中森明菜も最初は百恵フォロワーとして安易な「モモエっぽいソング」で売り出される危険性を孕んでいたが、最初は様々なアイドルソングを集めて「スローモーション」というフラットな名曲でデビューさせるという、結果オーライではあるがナイスな選択をしたことと、
少女Aという曲が「モモエっぽいソング」でありながらも「プレイバックPart2みたいなポルシェ乗り回す成熟した女性ではなく少女としての立場からモモエっぽいアジテーションをする」という大発明をしたことで山口百恵における少女歌謡期を一気に早送りできたことであった。
そして次に来た曲が「セカンド・ラブ」という清純な大名曲だったのもまた効果的であった。
これにより中森明菜には今で言う「ツンデレ」の要素が加味されて野郎の心を鷲掴み、少女Aのツッパリとセカンド・ラブのいじらしさの二律背反で、常に揺れ動く同世代の女の子の心も鷲掴みできたのである。

そんな少女Aを収録したこのアルバム、前作と内容的には代わらないものの、何かを掴んだのかな?と感じるくらい曲のバラエティーも明菜さんの歌唱もノリが違ってきてる。
そして重要なのが「セックス」を連想させるような歌詞が目立ち始めたこと。といっても百恵ちゃんが初期にやらされてた千家和也の最早ギャグにしか思えないセクハラ歌謡ではなく、あくまで性欲の芽生えというか、そのうちセックスに至るんだろうな、という予感に留めている辺りがポイント。

2.キャンセル!
(作詞:売野雅勇/作曲:伊豆一彦/編曲:萩田光雄
いかにもシングル候補だったな、と分かるキャッチの強いツッパリ歌謡。強がっているのはホントはあなたに落ちそうなの…的ないじらしい構文でちゃんと仕事してます。

3.脆い午後
(作詞:中里綴/作曲:三室のぼる/編曲:萩田光雄
親にナイショで彼と京都旅行に出かけて、先の予感に胸を膨らますという紀行モノに見せかけた性典歌謡。サビに方言を配してるところは愛染橋から?

4.哀愁魔術
(作詞:森雪之丞/作曲:小杉保夫/編曲:萩田光雄
「して…して…」というフレーズがそのまんまじゃねーかコラと思えば「透明に”して”」って…なるほどそういうことね。そんなあざといはぐらかし方をする性典歌謡。

5.咲きほこる花に…
(作詞:来生えつこ/作曲:来生たかお/作曲:若草恵)
お馴染み来生姉弟によるバラード。ギミックの多い歌詞で溢れるなか、余計な仕掛けがなく安心仕様の作り。

6.ヨコハマA・KU・MA
(作詞:中里綴/作曲:南佳孝/編曲:萩田光雄
「明菜版モンローウォーク」をご本人が所望したかな?カバーするほどファンだし。これもまたシングル候補だったのだろうか。私は着痩せするとまだ誰も知らない、なんて思わせぶりに相手を誘いこもうとするこれまた性典歌謡。

7.メルヘン・ロケーション
(作詞:中里綴:作曲:三室のぼる/編曲:萩田光雄
まるで銀河伝説から関係性が進んだかのような、デートで星座見物するリア充カップルの歌。

8.少女A
(作詞:売野雅勇/作曲:芹澤廣明/編曲:萩田光雄
説明不要のセカンドシングル。元々は「あなたのポートレート」をセカンドシングルにしようかという話でスタッフ・本人共にそのつもりでいたのだが、これが爆誕したためこちらをねじ込むハメに…。納得できない明菜さんを説き伏せ一度だけ歌えばいいと何とかレコーディングにこぎつけ、本人もこれっきりですよといわんばかりの迫力ある歌唱を見せつけた。つまり一発録り。そりゃ売れるだろ。
結局ブレイクして何度も歌うハメになりましたとさ。
「じれったい」といら立ちながら男を誘い出す少女像が当時としては衝撃だったらしくNHKで放送禁止になりかけたとか何とか。

「第七感(セッティエーム・サンス)」
スピリチュアルとしてではなく、彼氏の浮気に勘づいてますよ、程度の意味。それを直接的に書かないのが歌謡曲の歌詞のいいところだと思う。西野カナなら「なんで?どうして?あたし辛いよ!」ってそのまんまだもんな。

「x3ララバイ」
バイバイララバイと読むらしいんだが…かけ算のバイ(multipled by)のことかな?今となっては分かりにくい表現。xが3つならキスの意味があるし。

「カタストロフィの雨傘」
やはり明菜バラードは鉄壁だと感じる名曲。ストリングスをバックにしてお仕着せ感が出ないのはスゴい。けどこれは今のボーカルで聴きたい。ボーカルに表情を出し始めているのがわかるけど、まだコントロールが完全には出来てないからだ。

それにしても男女の描写に車が小道具として出る曲が多い。既にそういう豊かな時代に入ったということですな。若手社会学者あたりが資料として興味を持ちそうな内容だが、あの人ら明菜はろくに聴かないからアテにならないけどね…。

バリエーション<変奏曲>AKINA NAKAMORI SECOND

バリエーション<変奏曲>AKINA NAKAMORI SECOND

  • アーティスト:中森明菜
  • 発売日: 2014/01/29
  • メディア: CD