Dangerous Charms

個人の感想です

中森明菜「プロローグ〈序幕〉」

オリジナル盤発売日:1982年7月1日

中森明菜の記念すべきファーストアルバム。
まだ初期のアルバムには決まったコンセプトはなく、シングル候補曲を中心に集めた幕の内弁当な作品が中心となっており、これも当然そういう内容。
提供作家は当時のシンガーソングライターが多く、そこら辺は既に松田聖子が台頭していた時代だけあって考慮して作られているもよう。

聴いてみて最初に驚いたのが、彼女の声の低さとカン高さのふれ幅。そして後年の特徴だと思っていたハスキーさを最初から持ち合わせていたこと。
何となく「スローモーション」のさわやかさと歌唱映像だけ見た印象とで、初期は少女声だという勝手な思い込みがあったのだが、一曲目の「あなたのポートレート」で打ち破られた。
スローモーションと同じく来生姉弟によるこの名曲、たかお氏は明菜さんの声の幅を存分に生かして作っているのが分かる。サビでの上と下の差が凄い。
入りで耳にキンとするほどの高音になったかと思えば、結びなんて男性じゃないとキツいほど下がる。この初期の明菜さんのボーカルだけが持つ高音の張りは、ANNIVERSARYくらいになると「みんなが知ってるあの声」と引き換えになくなっていってしまうのである。

1.あなたのポートレート
(作詞:来生えつこ/作曲:来生たかお/編曲:萩田光雄
この曲が上がってきた時はセカンドシングル候補で、明菜さん本人もそのつもりだったという。ところが少女Aが爆誕したためアルバム曲に。実質アルバムのリード曲。これもスローモーションのようにリメイクして欲しいのだけど…。

2.Bon Voyage
(作詞:篠塚満由美/作曲:塚山エリコ/編曲:大谷和夫
後のリゾート・エキゾチック路線と違ってあんまりハマってないリゾートソング。

3.イマージュの翳り
(作詞:篠塚満由美/作曲:佐瀬寿一/編曲:萩田光雄
たいやき君や山口百恵で有名な佐瀬氏の曲。まだ高校生のくせしてハマりすぎなフラレ系バラード。

4.条件反射
(作詞:中里綴/作曲:三室のぼる/編曲:船山基紀
百恵の踏襲にして、少女Aへの前哨戦。揉めた恋人たちが
偶然だろうけど「写真うつり」という言葉でもしかすると1曲目の恋人たちがケンカしたのかも…なんて思ってしまう。

5.Tシャツ・サンセット
(作詞:中里綴/作曲:田山雅充/編曲:船山基紀
サビで高音キンキンするフォルクローレ歌謡。

6.銀河伝説
(作詞:篠山満由美/作曲:佐瀬寿一/編曲:船山基紀
彼が獅子座で、私が乙女座。あからさまに百恵ちゃんの「乙女座 宮」を意識していることが分かる。

7.スローモーション
(作詞:来生えつこ/作曲:来生たかお/編曲:船山基紀
説明不要のデビュー曲。このアルバムの中で言うまでもなくこの曲が最も輝いている。地声が低いのでキャピキャピしたアイドルソングは歌えない。かといって後期百恵ばりの低音ソングだと二番煎じ。よってこのちょっと哀愁のある、当時としては「らしくない」曲を選んだのは大正解であった。

8.A型メランコリー
(作詞:中里綴/作曲:田山雅充/編曲:萩田光雄
今は血液型がどうのって言わなくなってきたけど、昔の乙女は気になるあの人の星座と血液型が、性格や相性を確かめる為の重要な情報だったのだ。初恋はレモン色でした、みたいな。

9.ひとかけらのエメラルド
(作詞:佐藤ありす/作曲:大野雄二/作曲:大谷和夫
ここで大御所大野雄二が登板。やはり別れる系バラードはどハマりする。

10.ダウンタウンすと~り~
(作詞:伊達歩/作曲:芳野藤丸/編曲:大谷和夫
マッチみたいなこっ恥ずかしいタイトルが気になる。

粒揃いの歌謡ポップスが楽しめるものの方向性としては無策といってもよく、山口百恵フォロワーなのは分かるが、それ以外の可能性はまだ本人も周囲も自覚していなさそうで、とりあえず当時のアイドル歌謡の手札を並べてみましたということだろうか。
ボーカルはそりゃ、後の表現力に比べたらまだノリきれてない部分もあるし一本調子ぎみかなと思えるものの贅沢な悩みでしょう。ついこの前まで素人だった女の子がここまで堂々と歌えるなんて、やっぱり大物となる人物は最初から違うものを持っているんだなと分かるってもんです。

ちなみに、デビューに選ばれたスローモーション以外にあなたのポートレート、Tシャツ・サンセット、銀河伝説が候補として挙がっていたらしいが、結果的にスローモーションになってほんとによかった。
というのも、中森明菜さん本人が兄と母校に赴いて生徒たちにアンケートを募るという行動に出たのだが、その時トップとなったのが何とTシャツ・サンセットだという。
中学生相手なら音源のみ聞かせたところで、教科書に載ってそうなフォルクローレ曲が人気になるのも分からなくはない。それにしても発売前の楽曲をタレントがそうやって持ち出せるなんて相当のどかな時代である。

そんなこんなでデビューした中森明菜だが、彼女は82年組の中でもかなり遅い5月にデビューしており(賞レースの兼ね合いで、遅くデビューすると賞にありつけないため早い人は前年10月にデビューしている)、それまでの間に同期ライバルの「敵状視察」が出来たことも大きかったのでは?後にプロデューサーが「他のアイドルがワンパターンな曲でデビューしたのであえてアイドルらしくない曲で勝負した」と明かしているので、狙いはある程度あった模様。

…そういえば彼女のデビュー当初つけられたセクハラとしか思えない例のキャッチコピー、あんまりじゃないかと思ってたけど、裏ジャケのムッチムチなお姿を見たら納得してしまう自分がいたのだった。

プロローグ<序幕>AKINA NAKAMORI FIRST

プロローグ<序幕>AKINA NAKAMORI FIRST

  • アーティスト:中森明菜
  • 発売日: 2014/01/29
  • メディア: CD