Dangerous Charms

個人の感想です

中森明菜「NEW AKINA エトランゼ」

オリジナル盤発売日:1983年8月10日

ファーストアルバムより続いた三部作(になってないけど)を経て、新しい明菜とやらを目指して制作されたらしい四枚目のアルバム。それを意識してか、初めてのシングルなしのアルバムとなっている。シングルがないせいか売り上げは46万枚ほどだけどそれでも充分すぎるでしょう。この内容なら。

タイトルにフランス語が使われ、更にジャケット写真やイメージビデオまでパリでのロケが敢行された上にレコーディングまでパリ。
ここまでやればアルバムの内容だってフレンチポップスか何かだろうと思いきや、全く違う。むしろドメスティックな方向性というか、前作までの寄せ集め歌謡曲といったい何が違うのか分からない。
作家陣を新たにしたというものの、来生姉弟や売野氏は続投だし編曲は萩田氏のまんまだし、ちょっと中途半端。
その作家陣も山口百恵松田聖子を担当した人たちに乗っかりました、という安易さを感じてしまう。
それでも、テンション低くてボンヤリしてた前作よりは、まだ曲にメリハリがあるだけマシかなぁ…くらいしか感じなかった。
このアルバムが具体的に何がどう駄目なのかは、まこりんさんのサイトで徹底的にやってくれてますので割愛。

「さよならね」
(作詞:来生えつこ/作曲:来生たかお)
来生姉弟によるロッカバラード。いつもの直球バラードにはさせなかったところにNEW AKINAを感じろというつもりだったのかは知らない。明菜さんがシングル候補に推してた曲だそうだが、元々ツッパリソングには反対だった彼女にとって許せる範囲がこのあたりだったのか?

「ヴィーナス誕生」
(作詞:阿木燿子/作曲:財津和夫/編曲:萩田光雄)
阿木燿子作詞・財津和夫作曲によるストリングス・バラード。大変幻想的な曲ではあるのだが…阿木さんの作詞がなんだか70年代テンプレめいてるに明菜さんの歌唱もちょっと覚束なさが見え隠れしてて、結果ボンヤリした曲になってしまったような。今の歌唱力で改めて聴いてみたい。

「少しだけスキャンダル」
(作詞・作曲:翔/編曲:横浜銀蝿萩田光雄)
横浜銀蝿によるツッパリソング…というよりセクシーソングなのだが…何故このアルバムに入れる?編曲も萩田と共同(バンドパート担当)で迫力あるのだが…何故このアルバムに…。ただ、明菜さんの歌唱(囁き→パワフルによるダイナミズム)がここでハッキリ形になってるので、声だけ楽しみましょう系のもったいない一曲。

「感傷紀行」
(作詞・作曲:谷村新司/編曲:萩田光雄)
これ…谷村新司提供曲だけど完全に「いい日旅立ち」の二番煎じでは…。だからなんでおフランスめいたアルバムにずぶな歌謡曲を入れるの…。しかも歌詞が国内旅行をテーマにしているのだが、アルバムタイトル「エトランゼ(異邦人)」ですよ?空気読めよ。悪い曲ではないから、若手演歌歌手にカバーして欲しい。

ルネサンス -優しさで変えて-」
(作詞:売野雅勇/作曲:細野晴臣/編曲:萩田光雄)
売野氏作詞・細野晴臣作曲による打ち込み歌謡曲だけど、禁区と同じく生演奏とチグハグな組み合わせになっている。これに打ち込み使う必要あるのか…。使うなら「瑠璃色の夜へ」みたいに打ち込みのみにすべきだった。
まこりんさんのサイトでは誤記があったがこちらの編曲は萩田氏単独である。それにしても歌詞がほんとに恋の奴隷。なのに「なかったことにするわ」で結びって、ほんとはぐらかそうとして着地に失敗した感丸出し。ルネサンスって再生という意味なのだがタイトルあまり関係ないんだろうな。

「モナムール(グラスに半分の憂鬱)」
(作詞:売野雅勇/作曲・編曲:細野晴臣)
同じ布陣でこちらは編曲も細野氏単独。唯一のフレンチポップスかつ佳曲。コシミハルというか後の高岡早紀というか。歌詞にパリを出していてタイトルに忠実で、細野氏の打ち込みも禁区と違って成功している。ただ、まだ未完成の囁き歌唱だけが惜しい一曲。声を弱めた結果ただの掠れ声になっているような…。高岡早紀ならハマったんだろうな。明菜さんなら5年後の声で聴くと悶絶必至だろうにもったいない。

「ストライプ」
(作詞:来生えつこ/作曲:来生たかお/編曲:萩田光雄)
来生姉弟による爽やかな夏ソング。これにストリングスとホーンセクションを加えて派手にすれば王道アイドルソング一丁あがりなのだが、そんな曲がこの時からハマらないのが中森明菜という存在。どうしても空の向こうに雨雲が見えてしまう。来生曲ということでバラードアレンジしてリメイクしたものを聴いてみたい。

「わくらば色の風(ラブ・ソング)」
(作詞・作曲:TAKU/編曲:横浜銀蝿萩田光雄)
また横浜銀蝿の曲だけど、こちらは打って変わってやたら甘ったるいゴスペル風バラード。あんないかつい兄ちゃんがこんなリリカルな曲作れるのか…。暴走族のマスコットガールって、こんなのを夢想しているのだろうな。それにしてはやけに清純すぎませんか?曲はこの中では比較的まっとうで、今でも歌えそうな感じはする。歌詞は少々痛いけど。
だって風にラブ・ソングとルビ打つとかどういうセンスだよ。

「時にはアンニュイ」
(作詞:阿木耀子/作曲:財津和夫/編曲:萩田光雄)
また阿木・財津コンビの曲だが、ネームバリュー以上の必然性を感じない、前作までのぬるめのツッパリソングと似たような仕上がり。ディレクションの失敗ではないか。ただ歌詞は後の「DESIRE」の原型となるような内容となっている。

「覚悟の秋」
(作詞・作曲:谷村新司/編曲:萩田光雄)
また谷村新司による曲だが、こちらは「秋桜」を意識したのかも知れない、いや確実にしてる母親へのオマージュソング。でも結婚ソングではなく、母親との死別を思わせる内容となっている。だから覚悟なのか。まだ嫁入りをネタに使えないからってこれだと更に重々しくなってしまったのでは…。でもこれも悪くはないから誰か若手演歌歌手が(ry

そもそもジャケットからして内容のイミフさを予感させる。顔が殆ど影に隠れた不気味なポートレートは後の「不思議」と区別がつかない。秋口リリースということでアンニュイなパリの雰囲気を出そうとしたのだろうが、そこで谷村新司の歌謡曲を入れてしまう選択ミス。
なんでこんな作品になったのか今となってはリスナーには分からないけども、松田聖子に肩を並べる歌手になったことで気合いが空回りしてしまったのだろうか?
シングルなしという気合いだけは感じるがそれだけ。クレジットを見たらメチャクチャ豪華作家陣なのに、いざ聴いたらここまで内容の覚束ないアルバムにできるというのもある意味才能かも…?