Dangerous Charms

個人の感想です

中森明菜「BEST AKINA メモワール」

オリジナル盤発売日:1983年12月21日

中森明菜の最初のベストアルバム。
本来ならば「NEW AKINA エトランゼ」の次は「ANNIVERSARY」が来るのだけど、このベスト盤には副題に5th ALBUMとあり、ANNIVERSARYには6th ALBUMと副題にもジャケットにもあるのでこちらも同じアルバムとして記事を書くことにした。

やはり今も昔もベストアルバムは強く、こちらは83年の3枚目のアルバムにも関わらず大ヒットし、これまでで最高である70万枚のセールスを記録している。
というのも、83年にリリースした「1/2の神話」「トワイライト」「禁区」のシングルはみなオリジナルアルバムに未収録となりこれまでのシングルも含めて全て収録されたので、そりゃ売れない筈がない。アルバム曲も少しセレクトされているが、シングル候補であったものから選択している模様。
つまりこれさえ聴けば当時の明菜の美味しいところは一通り味わえますよ、という決定盤である。
更に、特典としてカレンダー付き(帯の文字色が赤)とポートレート付き(帯の文字色が緑)の2種でリリースという今でいう複数商法になっている。
翌年に跨がってのロングセラーとなった為に、カレンダーという性質上特典としての意味がなくなっていくのでポートレートに変更になったものと思われる。これはバリエーションでも途中でカレンダーが付かなくなったのと同じである。
まあドーナツ盤ならまだしも、紙モノのおまけくらいで高価なLPを2枚買う猛者は少なかったと思うけれど。
(この特典、2006年の紙ジャケではポートレート、2012年の紙ジャケSACDではカレンダーが復刻されている)
それにしても83年の明菜のブレイクっぷりというかレコードの売れっぷりは凄いものがある。前年リリースのセカンドアルバムは83年も売れ、サードアルバムも売れ、このベストも84年にまたいで売れ、とにかくバンバン出てバンバン買われている。まさに社会現象である。
だが、その売れっぷりの割に作品そのものはそこまで追いついていないというか、ビミョーなものばかりだった。
アルバムはなんだかボンヤリした内容の「ファンタジー」に、全ての方向性がチグハグな「エトランゼ」。
シングルは”じれったい”少女Aの二番煎じで”いいかげんにして”とぶちかます「1/2の神話」に、知名度で来生三部作になり損ねたイージーリスニングのような「トワイライト -夕暮れ便り-」に、細野氏のリズムのせいでヤプーズみたいになった「禁区」と、駄目ではないけどこの先の展開が厳しいぞ、と言いたくなる曲だらけでスタッフは一体何を考えていたのか不思議で仕方ない。
ちなみに、当時「明星」に初期の担当ディレクター/プロデューサーであった島田雄三氏の全曲解説が掲載されていたのだが、これで各曲について新たに分かったことがいくつかある。
「禁区」で新鮮味がほしくてYMOサウンドを取り入れてみたこと(どこがだ!)、
「トワイライト」は明菜さんの可能性を最大限に引き出す為にシングルに決定したこと(どこがだ!)、
「キャンセル!」はデビュー前から存在したシングル候補だったこと、
「あなたのポートレート」をセカンドシングルにするつもりだったこと(別ソースだが少女Aをセカンドシングルにすると決めた際、ひとたびデモを聴くなり明菜さんは「ヤダよこんなの」と拒絶。それでもこの曲に賭けた彼と大喧嘩の末決定したこと)、
「少しだけスキャンダル」は明菜さんのニューな部分が出せたと思っていること(どこがだ!あと”ニュー“って恥ずかしいぞ)、
そしてそして、山口百恵を特に意識してないこと(ウソをつくなウソを。デビュー時の曲発注コンセプトは山口百恵だったろうが)、
うーむ、当時のスタッフ側の采配というのがどんなものであったのか伺い知れるというもの。
「スローモーション」をデビューシングルに選び「少女A」をセカンドシングルに選んだ勘だけは評価するが。
この次のシングル「北ウイング」とアルバム「ANNIVERSARY」で、決定的に作品の質というか段落が変わることを考えたら、結果的に歌謡アイドル期をここでちょうどよく総括できて良かったのではないか。

ちなみに、トワイライトはシングルとは異なったミックスで収録されている。ボーカルも一部違うテイクが採用されているという。ミックスはストリングスの広がりがあるこちらの方が好み。